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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
源氏重代の紺おどし「源太ヶ産衣」の具足をよろい、髯切の太刀を横たえ、逞しい鹿毛の鞍にあるために、一かどらしくは見られるが、何といっても、まだ十三歳であった。
「……睡たい」
慾も得もなく思う。
鞍腰と手綱の手は、自然、凍りついたように無意識な調子をとっているが、頭脳はまったく行く道になかった。白い天地と同じように、頼朝の頭脳のなかも、ただ白かった。――白い、白い、果てなく白いものを夢みつつ揺られていた。
思うに。
彼はこんな状態を、きょうは何度も繰返していたにちがいない。その間に、父義朝や家人の群から迷れてしまったものであろう。わずか十間か二十間も隔てると、もうお互いの姿も見えない白毫の霏々紛々なのだ。それに道とても、一足おくれれば、西したか、東したか、馬蹄の痕形もないのである。
――佐どのうっ。
――佐殿うっ。
しきりと自分を呼ぶ気がする。頼朝ははっと眼をひらく。きれいだ! 実にきれいなと思う雪ばかりである。
駈けても、人影一つない。止まっても、人間のにおいもせぬ。白一色だ。人の気もない世間とは、こんなにも美しいかと思うばかりである。
頼朝はまたいつか、馬の上で、うとうと居睡ってしまうのであった。