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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
二
その日の過ぎるまでお待ちくださいまし」
果ては、よよと嗚咽していた。蓮忍はその体をふしぎそうに見ていたが――自分にもあった少年の日の感傷を顧みて、
「では、屹度だぞよ。五月を過ぎたら、否やは云わせぬぞよ」
と、念を押した。
二
梅雨があがって、山には病葉がしとどに落ちていた。
初蝉の声が静かだった。ふだんは詣る人も極めて稀な貴船山の奥之社に、今し方、誰か柏手を打って拝殿のあたりから去って行く気配と思うと、
「神主さん」
ひとりの旅人が、社家の入口を覗いて、訪れていた。
「……お留守ですか。誰もいないんですか」
しばらくして、
「どなたかの」
昼寝でもしていたらしい老禰宜が、ゆったりと出て来て、
「おう、奥州のお商人か」
「ごぶさたいたしました。今年もまた、上洛って参りましたので」
「ようお越された。さあ、おあがり」
「ごめんなさいまし」
足を洗って、吉次は、一間に通されてくつろぐと、
「早速でございますが、荷になる手土産は、お山の事とて、持っても伺えませんので、ぶしつけながら、社殿のご修繕の費えの端にでも」
と、一封の金を、寄進にとさし出した。
禰宜は眼を細めて、
「これはどうも。