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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

三

三

こうも早く、自分たちの没落が迫って来ようとは、平家の誰も思わなかった。

ことしの四月頃には、まだまだわが世の春と、うららかに、酔っていた。

義仲征伐に、北陸へ向けた維盛や忠度からは、

「戦えば、勝つのみ」

と、いつも連戦連勝が報じられて来るし、鎌倉の頼朝は、あれきり東国にいてうごく様子もないし――と。

それが、礪波山の一戦で、義仲の奇計に、いちど敗地にまみれてから、形勢は急転直下、変ってしまった。

逃げ足立った平家軍を、追いに追って、木曾勢は、加賀、越前を突破して長駆、近江まで追撃をゆるめずに来てしまった。

――と、思うまに、この月二十二日には、もう湖水を渡って、叡山に拠り、平家一門の屋根を、眼の下に見て、

「もう、いつでも」

と、攻略の手配を完全にととのえて、それから二、三日の余裕すら示している敵であった。

維盛、通盛、忠度、資盛などの諸大将も、今はすべて洛中へ逃げもどって、

「どうすればよいか」

を、宗盛以下の一門へ諮ることしか知らなかった。

――知らなんだ!

今となって、彼等は、ため息ついて、後悔の臍ばかりかみ合った。

つい目と鼻のさきに、朝夕栄華の日の手枕にも眺めていた叡山の大衆までが、