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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

二

……いったい何たるお行状だ」

「それを申し上げるのか」

「云うのが臣の道だろう」

「わしはいやだ」

「なぜ」

「女のことなど、云えぬ。……誰しものことだもの」

「愚かなやつ。本末を聞き誤るな。何もそうしたお行蹟の端のみお責めするのではない。たとえ、いかに女人には甘かろうと、ご腹中の大事さえお忘れなければよいが、それが、わしの観るところでは」

「覚束ないというのか」

「案じられるのじゃ」

「そうでもあるまい」

盛綱は、物事をすべて、兄よりも、大づかみに観る方らしく、

「難しいものだとよく人のいう、女に対して才がおありなくらいだから、他の事にも、十分、お考えがあるにちがいない。兄者人のように、そう自分で事を挙げるようなわけに行くものでない」

と、かえって、兄の焦躁を笑った。

二

夕雲へ眸がゆく、兄弟とも黙りこくったままである。ひとつ主に仕えても、ふたりの観方は同じではない。

「……分らぬ」

定綱はまだ云い足らぬように、やがて独り呟いた。

「怠惰なご性質かと思えば、朝夕のご規律、武道文学などには、人いちばいご精進もなさる。涙もない冷やかなお生れ性かと見れば、時には優しい、むしろ情痴なほど、溺れ遊ばす質かとも疑われる。