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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
四
「では、それを見物して、お暇するといたしましょう」
その前にも、彼は時折、ひとり出かけてはいた。先頃も龍王の滝を見て来ましたとか、蛍石まで行って参りましたとか、話していたが、禰宜は、彼の言葉どおりに信じて、その行先を疑ってみた事もなかった。
二十日となった。――その日は終日、一間にいたが、祭の中日という朝のこと、
「ことに依ると、鞍馬のまつりを見て、そのままお暇申すかも知れませんが」
と、挨拶して出て行った。
四
山の祭りで、無性にはしゃいでいるのは、鞍馬の稚子たちであった。
天上の山が、下界同様、人出に埋まって、ここの深山も、世間と変わりない色に塗られたからである。牛若も、その中の一人だった。
「遮那あっ、遮那っ」
大廊下を駈けるひどい足音に、法師のひとりが役僧の部屋から出て来て呶鳴りつけた。
「はいっ。何ですか」
暴れ廻っていた稚子は七、八人も一つ所にかたまって振向いた。稚子輪に結った髪も、曙染の袂も、金糸の繍も、紫濃の袴も、みんなお揃いであったが、元より山家の生ればかりなので、その袂で汗は拭く鼻くそはこする、せっかく化粧して貰った白粉も、黛も、かえってお道化たものになっていた。