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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
六
今も、それを独り思い耽っていたところへ、法音比丘尼が話しかけて来たのである。おさびしかろと問われて「否」と答えたのは、正直な返辞なのであった。
六
「姫さま」
「はい」
「余り先の先までは、考え詰めぬがおよろしゅうござりますぞ」
「何も考えておりません」
「おつつみなされても、この頃のお窶れよう、尼も胸が傷うなりまする」
法音比丘尼は、眼をうるませて云う。――幼少から手塩にかけた政子なので、いつまでも子どもと思うているらしい。
政子は、何かというと、尼が自分をいたわる為に、涙をこぼすので、いつもかえって当惑した。
尼は、彼女のした事を、まったく処女心の盲目にした事とでも思っているらしい。取返しのつかない過失と、自分が大罪でも犯したように、恐怖しているらしいのである。
政子の心とは遠かった。尼が涙して自分をなぐさめるのを、政子はむしろおかしく眺めて、
(お師さまもお齢を老られた)
と、思うだけだった。
「――お師さま。わたくしの身の事は、どうか、ご心配しないで下さいまし。自分にも、固く思うところがあってした事ですから」
「きついご気性のう」
尼は、見上げて、
「お小さい頃から、お気性は勝っておいでなされたが、何というても、女子の身は」