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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
三
と、父の常胤も、とうとう承知してしまった。
兄弟は、雀躍りせんばかり欣んで、やがて、頼朝の密使、藤九郎盛長を導いて来た。
盛長は、胤頼の館で、すっかり装束を着更えて出た。――意地わるい眼で、その言語動作を見つめていた常胤も、
(よい侍だ)
と、心で呟いたふうだった。
「初めてお目通りを得ます。自分事は、源家の棟梁故義朝様のご嫡男、頼朝様の家人でござりまして、藤九郎盛長と申します者」
と彼の慇懃を、
「左様であるか。儂が、千葉介……」
と、一方は、至ってあっさりと受ける。
藤九郎は、一目見て、千葉介が気さくな老人であるのを知った。年は、当年六十四と、さっき胤頼から聞いてもいた。
味方の北条時政などは、まだ老人というほどな老境でもないせいか、多分に垢ぬけない所だの、我意我説だの、私慾なども旺盛で、よく若い者と衝突はするし、俗にいうかどの取れない所が多分にあるが――この老人は鶴のようだ。それでいて、頬には赤味をたたえている。にこやかで、感じがいい。
「京都へ参られた事があるかの。京都はよいな」
そんな話からはじめた。
合戦がどうの、源氏がどうの、平家が――とそんな噂はにも出さないのである。