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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

二

いや、子のような気持を寄せるには怖ろしい対象なのにと、自分の情を疑ってもいた。

しかし何れにせよ、慾と敬愛と、折合わない二つのものを、一つ対象に抱くなどという例は他になかった。義経だけが例外であった。

「……どこかで?」

彼はなおも義経のすがたを見ていたくてならない容子であった。

いつのまにか、彼のすがたは、そこを去って、鶴ヶ岡の山林へ立入っていた。

深い木の間に身を埋めてながめていると、東側の仮屋に、頼朝夫妻のすがたが眺められた。夥しい家人衆は、社域の南北に居ながれている。

以前の瑞籬は、由比郷に面した南の山にあったのだが、頼朝の入国と同時に、ここへ造営を開始され、おとといの八日までに、棟上げまでに運びができた。

きのうは、治承の年号が、養和と改元された日であった。

で、改元の第二日目に、きょうの棟上げの式は行われたわけである。

式が終ると頼朝は、作事に功労のあった二人の工匠に、賞として、馬を与えようと云い、座右を見まわして、

「九郎。――九郎はいずれにおるか」

と、呼んだ。

「はい」

義経は、東側の列の幾人目かに伍していたが、すぐ起って、

「御前に――」