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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

六

宗時は、

「叱、静かにっ」

と制しながら、眸をこらしていた。そしてわずかに炎の舌が閃き出した目代邸の火の手を見つめていた。

火は、そこの釜殿か、納屋あたりから燃え出したらしく思われる。立騒いで、右往左往する人影が、火光の中に蚊みたいに見えた。

六

北条家の両親をはじめ、一門の縁者と、山木家の一族とが、ふた側に分れて、広い華燭の間にひそと居ながれていた。

花聟はまだ着坐しない。

花嫁もなお輿を降りたまま、どこぞの一室に、ひかえている頃だった。

嫁親の北条時政は、聟の父にあたる老翁と、至極、親しげに何かはなしていた。

時政は、社交に長けた口ぶりでその余の一族へも、

「このような欣しい夜はござらぬ。ただ彼女も思いのほか子どもで、家を立つ折、婦道を守れと、訓えを一言申したところ、嬰児のように泣かれたには弱りました。……はははは、てまえも、この後は、がっかりするだろうと存じておる。むすめ一人、二十歳まで生い育てて来たかと、何やら自分の齢が急に数えられましてな」

そんな雑談をしているうちに、広い邸なので、よほど遠くではあったが、火事、火事っ――と駈けまわる召使たちの足音や大声が突然立ちはじめたのであった。