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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
途中の人
一
「いずれへお旅立ちですか」
「東国へ」
「東国は?」
「鎌倉のあたりまで」
と、公朝は、何か意味ありげに、にことして見せた。
振向いて、宮の森を指さし、
「ご参詣は」
「ただ今、参拝をすまして、これに休息しておるところですが」
「では、そこまで、お顔をかして給わらぬか」
公朝は、供の者をそこへ残して、もう先へ歩いてゆく。
問いたい事は、義経にもある。
義経は、忠信、継信の兄弟へ、何かささやいていたが、すぐ一人で公朝の後を追った。
十月末の空は澄んでいるが日蔭はいとど寒い。杉木立のふかい中に、蔦もみじだけが赤く眼に映る。
神前に坐って公朝は、長いあいだ礼拝していた。
義経は、つい今し方、先に参拝をすましていたが、ここに立つとまた、さっきも想い耽った多感な追憶にふたたびつつまれた。
十六歳であった――
ここで貧しい加冠の式をして、吉次と共に、奥州へ下って行ったのである。
吉次といえば。
どこかそこらの物陰から、今にも彼の男がひょいと出て来そうな気がする。
「いや、お待たせした」
公朝は、膝の塵を払って、義経に近づいて来た。そしてあたりを見廻しながら、相手の耳近くへ、