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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
五
――が、毎日巷へ出て、主君義経の身辺や源氏の動静は心にかけて聞きさぐっていた。
政治的に、軍事的に、義経をめぐって、事情はよほど変ってきた。
秋、十月の半ばごろ。
六条室町の義経のやしきから美々しい八葉の車がひき出された。
衛府三名、供侍二十騎が、それに扈従して行った。
「判官どのが出られる」
「大夫判官様が、初のご参内じゃそうな」
辻々に人が駈け出て、車のうちなる人を見ようとした。
八葉の車のうちには、平和な装いをした義経が駕っていた。その折、目撃した人々のうわさとして書かれた物にも、
容貌優雅にして、進退のやさしさ、義仲などの類にはあらず。
ことのほか京馴れてこそ見えたれ。
と、あるほど、それは端麗でもの静かな人がらと群衆の眼にも映った。
鎌倉殿との、複雑ないきさつなどは、群衆のあたまにはない。ただ当然なこととして見送っていたのである。
「だが、これは、一体、どうした事?」
と、佐藤継信と忠信は、ひそかに六条のやしきに残った旧友に訊ねてみると、鎌倉と義経とのあいだは、以前にもまして良くないが、特に、後白河法皇の優渥な思召しから、院旨を以て、叙位官職を賜わったものと聞かされた。