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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
二
――それも、ぽつぽつと、人目立たぬように」
「……?」
「分らぬのか」
「……分りましたが」
「武器は、一纏めに、荷駄として、蔽を着せ、要所へ先へ送っておく。そして人間のみを後から配置すればよかろう」
「では、伏勢として」
「武門の嫁入りだ。どんな変がないとも限らぬ。あっては聟殿に申しわけあるまいが。……父親の心添えだ。総領のそちは、婚儀の席に連なるより、陰にあって、不慮の出来事に備えておれ」
宗時が、頭を上げると、父はもうそこにいなかった。
二
誰も彼も、華やかな忙しさに追われている中に、時政の顔のみは、不機嫌とも見えるほど硬ばっていた。
政子の輿入れに前立って、父親は父親としての、心遣いに趁われてもいよう。今、惣領の宗時に、その一つを託し、召使たちの右往左往している廊を真っ直ぐに通って、わが室の辺りまで来て佇つと、
「牧っ……。牧っ」
と、妻を呼びたてた。
そして、牧の方の姿を見ると、
「後でよいが、政子の支度が終ったなら、広間へ入る前に、これへと申せ」
と、いいつけた。
そのまま、時政は、座に着いて、黙然と、守山の雲の去来を、廂ごしに見ていた。
庭面は暮れかけてくる。