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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

三

木の葉かと思えば、そこらの御堂の蔀や縁にこぼれて来るのは白い霰であった。

「お寝みですか。常磐さま。……ぜひ、まいちど起きて下さいまし。光厳です」

産寧坂の上である。音羽の山を背に負っている。光厳はあたりを怖れながら、子安観世音の御堂の扉をしきりに押していた。

三

「はい。……ただ今」

御堂の中で答えがした。

低い声であった。けれども麗しい女人の年ばえが、それだけでも分った。

静かな気はいが中でうごく。やがて御堂の扉の隙間に明りがさした。絶えて人など住んでいた例のない堂宇なので、蔀は破れ、煤や雨漏りの荒れもひどいのに、誰が寝泊りなどしているのだろうか。

それからして、そもそも、怪しまれてよい事であった。だから、光厳は、外に佇んで、そこの開くのを待つ間も、気が気ではない様子であった。

「御前様。……ぶしつけではございますが、凡の場合ではございませぬ。どうぞ、お身装など気づかいなく、早くここを開けて、お顔をかして下さいまし」

光厳に急かれて、

「はい、はい。今ほど」

次の返辞は哀れなばかりうろたえて聞えたので、光厳は気の毒やら済まない思いやらに堪えかねて、

「おそれ入ります」