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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
三
その心理が、
「河内を先へ討て」
となった。
河内にも、自分の敵が、蜂起していたのである。
その主謀者は、頼朝を離れていちど自分につき、また、不平を抱いて自分から離反した新宮十郎行家だった。
兵七百を割いて、樋口兼光を、その方へさし向けたのである。
――後に思えば。
この七百の兵力を割いたのは、彼にとって重大な用兵の失策であった。
なぜならば今、洛中にある彼の兵力は、三千に足らなかった。
今井兼平を将として約九百の軍勢を瀬田の防備に向け、また根井行親を大将に、約千二百の兵を宇治のふせぎに繰出した後は、わずか三百ほどの兵しか京都には残っていなかった。
その三百の兵をひいて、義仲自身は、院の御所を守護していた。
心ある者の眼には、
「あの将軍の心には、一体、何を恃むものがあるのか?」
と、怪しまれるほどだった。
また、時の人々は、彼が平家へ和睦を申し入れた心理をいぶかしい事として、義仲の心をいろいろに忖度した。
平家こそは、源氏にとって、石にかじりついても屈しられない累代の仇敵ではないか。何のために源氏の兵は、きょうまで臥薪してきたのか?
そう問いたいのであった。