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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

梅月夜

一

「お暇しましょう」

「そうですか」

先に立って、

「では、南廊の口まで、お送りしましょう」

遠くの屋に、笙や金鈴や鼓や笛の音が聞える。禅尼は、悄んぼりと泉殿の住居へ帰って行った。

禅尼を見送ってから、清盛はひとり橋廊下の角に佇んでいた。東山いったいの眺めは、ここの館の為にあるようだった。北苑を見やれば、加茂の川岸まで、薔薇園の広芝に明るい陽がほかほかしていた。

ぽーん

ぽーん

うららかな音がする。公達たちがまた、鞠を蹴っているのであろう。小松のあいだから時々高く鞠が揚がる。

三男の宗盛やら、従兄弟の経正やら、彼の蔓に生えているたくさんな一族の子等が、鞠を追って、夢中に転げているのが見えた。

「――馬鹿あっ!」

正月このかたのご機嫌は、とたんに一変していた。侍側の家臣も、胆をつぶした。恐らく清盛の頭には、池の禅尼のことばでも、思い出されていたのではなかろうか。

「弓でも射よッ。馬にでも乗り馴れろっ。わいら、公卿の子か!」

梅月夜

一

宗清は、何処からか今、帰って来た。

乗馬が汗をかいている。

五条松原の末を出端れると、馬場があるから、そこで一鞭当ててきたのであろう。