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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

清盛

一

「おれに貸せ」

と、自身、轅のわきに付いて、びしびしと飴牛のしりを叩いた。

牛輦の轍は、御所の裏門を軋み出るなり、石を噛み、泥濘を傾いで、ぐわらぐわらと揺れ進んで行くのだった。

揺るるたびに、前御簾の裂け目から、常磐の白い顔や、その膝にとり縋っている子達の姿がちらと見えた。

いつ聞き伝えたか、

「あれよ、常磐御前が六波羅へひかれて行く」

「六条殿のお子もか」

と、往来に群れて指さすもあり、輦についてぞろぞろ指さしながら来る雑人たちの跫音も聞える。

「…………」

常磐は眼をふさいでいた。

その間とても、乳を吸い止まぬつよい紲、膝にしがみついている小さい手の紲。この輦を六波羅へ引いてゆくのも老母の紲であった。

紲の中に、彼女は、まだ生きている身心地を持っていた。

清盛

一

非常なご機嫌である。

かなり悪い事つづきで、一族が眉を曇らしている時でも、およその事は、

「ばかな。何を鬱々」

と、陽気にしてしまう清盛が、わけてもこの頃はご機嫌なのであるから、六波羅一廓のことしの正月こそは、寔に、初春らしい陽気に充ちあふれていた。

それと。

清盛を始めとして、ここに住む平氏の一族たちは、その郎党の端に至るまでが、