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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

駒

一

……ついでの事に、ご姓名をお聞かせ下さいませんか」

「それがしは、佐藤継信。これにおるは弟の忠信だ」

ふたたび馬上の人となると、兄弟の影は蝉しぐれの彼方へたちまち駈け去っていた。

駒

一

吉次は次の日、由比ヶ浜へ来てみた。

約束の人は見えなかった。

翌日、彼はまた、同じところで待っていた。佐藤継信、忠信の兄弟のすがたはその日もついに見当らない。

五日も七日も通った。

「はて。あれきりだが?」

――月もかわって七月に入ってしまった。はや船の荷あげも商用も終ったので、彼の手代は奥州へ帰る日どりを彼に諮った。

「そうだなあ、ついでの事に、この月の中旬には、八幡宮のお棟上げがあるそうだから、それを見物してから帰ろうではないか」

吉次の云った鶴ヶ岡の上棟式には、頼朝夫妻から家人の主なる人々が臨んで、ずいぶん盛大に執り行われるであろうと、近郷の噂もなかなかであった。

「その事は北条殿からも伺いました。せっかくだから、ぜひ当日のご盛儀を、よそながら拝観してゆけ。国への土産ばなしにせよと、時政様からもおすすめ下さいましたが」

「そうか。では、北条殿におねがいすれば当日、どこぞお目障りにならぬ場所で、ご式の模様が拝めようか」