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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
六
光厳の手から刃をぎ取って、吉次はまた云いかぶせた。
「お心はよく分る。あなたの身一つだけではないからな。ばれたらこいつは一大事だ。六条河原にまたも首塚が出来上がろう。――だから貴方としたら死んでもここは口を開けないところに違いない。ましてや何処の馬の骨か知れない奥州者の吉次に、おいそれと打明けられないのはごもっともだが――なぜその前に、常磐様から鞍馬へ文の通う事だの、一条朝成なんてお人好しな者までが謀叛の火だねみたいに物騒がられて、いちいち六波羅へ聞えるのか、それを疑ってみないんですか」
「…………」
「光厳さん。注意ぶかいようだが、お前さんもまだ若いな。法衣にかくれ、法話に行くと称えて、一条朝成の奥向に出入りしたところは上出来だが、その常磐様には、切っても切れない伏見の鳥羽蔵という伯父がいることをご存じあるまい。自分も一、二度見かけた事があるが、見るからに眼つきのするどい卑しげな男さ。以前、常磐の前を詮議中、伯父のくせに、しかも源家の恩顧を蒙っているくせに、六波羅へ密訴したかどで、その後は取立てられて、四、五十名の侍を飼い、肩で風を切って歩き、いよいよ平家の問罪所へ、忠義立てているという風上にも置けない代物だ。