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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

二

「はて。何者か」

と、眼をこらしていると、

「鎌倉殿のお陣屋はここでござるか」

と、問う。

武者たちは、声をそろえて、

「いかにも」

頷きを与えながらも、眼は、油断なく、冠者のうえに注いでいると、

「――お取次ぎを賜われ。遥々、奥州より駈け下って参った弟の九郎です。兄頼朝へ、九郎が参ったと、お伝え下されませ」

「……なに?」

皆耳を疑った。

聞きちがいではないかというような顔つきを示した。

冠者の語音には、なるほど、奥州らしい訛りがあった。しかし、それも聞きづらい程ではない。ただ、冠者のことばが、余りに感情に満ちていて、平静でないので、役目上、番の武者たちは、すぐ危険視したのであった。

――それとまた。

兄頼朝と云ったのが解せなかった。九郎などという弟御のある事など、話のはしにも聞いたことがない。武者たちは、よけい不審な眼をかがやかした。

「おねがい致しまする」

九郎義経は、ことばを重ねたのみならず、武者たちの眼いろを察して、ていねいにその頭を下げ直して、

「不審の者ではありません。年久しく鞍馬にあり、その後、奥州にかくれて、生い育った九郎義経です。――と、お伝えたまわれば、兄頼朝はご存知のはずです。