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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

五

その間に彼は自然、多くの貴紳から知遇を得、また特べつな交わりというものもあったに違いない。

そう考えると、義経はまた、

「嘘とも思えぬ」

と、彼の言に、耳をひかれた。

吉次としては嘘どころではない。彼は、義経に対してだけは、敬愛の心をもって、奴僕の如く、身を粉にしても仕える気であった。その誠意は、義経の多感な胸には、ありのまま映らずにいなかった。

「そちのことばに従って、九条殿へお願いに出てみよう」

ついに、義経が云うと、

「いえ、いきなり九条殿へ、あなたがお訪ね遊ばしては、人目立ちましょう。てまえにお任せくだされば、よいように運びますが」

吉次は自信をもって云う。

彼はその朝、そこを辞して、一日姿を見せなかったが、夜に入ると、約束の時刻もたがえず迎えに来て、

「お身なりを変え、お微行のつもりで、てまえに従いてお越しください」

と、迎えに来た。

そして何処ともなく、彼の駒を導いて行った。

後に、人は種々に云う。

その晩、義経は、九条どのをこっそり訪れたのだとも、また、いや、さる寺院の奥ふかくで、院のお側近く仕える朝方卿や親信卿など反平家の、そして特に義経に好意をもつ一派の人々と会っていたのだとも、取沙汰は区々であったが、誰も、実相は知るわけもなかった。