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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
四
(双六が欲しい。伊豆へゆくと淋しいから)
と、答えたので、禅尼はその答えにも、
(あどけないものよ)
と、涙ぐんだりした。
春秋無事に、仏供養のほか、する事もない禅尼には、この善根を施して、きょう頼朝を、東国へ立たせてやることは、人知れぬ大きな楽しみでもあり、生きがいを覚えた事でもあった。
「さ……。お待ちかねでしょう。お部屋へ伺ってみましょう」
宗清は、そう促して、頼朝を連れ、さながら華麗な寺院のような泉殿の廊を渡り、ひろい平庭に向っている禅尼の一室へ、別れのあいさつを告げに行った。
まだ仄暗いので、次の間にも禅尼のそばにも、結び燈台が灯っていた。けれど朝の冷やかな大気は室に満ちていて、灯の色は白々していた。
「おう、佐殿には、もうお立ちか。……お名残り惜しいことよの」
禅尼は、頼朝のほうを向いて、しばしは、その姿を見入っていた。頼朝も、さすがにこの朝は、胸がつまって、何といっていいのかわからないのであろう、いつまでも両手をつかえているだけだった。
四
やがて、頼朝は、
「ご恩によって、ふしぎな一命を長らえました。生々世々、忘れはしません。伊豆へ下っても禅尼様のお幸を、朝夕祈っておりまする」