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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

七

宵から雲の断れ目は昼のように明るく、冬の夜というのに、妙に温い風がふき捲って、往来の乾いた土ほこりが、戸ごとの燈火へ赤く霞んでいたが――そのうちに乾の方からぐわっと地鳴りが聞えて来たかと思うと――もう大地は発狂したかの如く震れに震れ洛中の人家九万余戸、大地震の惨害に見舞われていた。

幸いに、死者や民家の被害は、思ったほどでもなかったと分って、数日の後には、人々もややほっとして、災後の始末に奔命していたが、陰陽師の安倍泰親は、

「占文の示すところ、ただ事とも覚え候わず」

と、例によって易経をひき、伝奏まで書を上す折にも、ひとり嘆息して涙をながしていたと聞えた。

「まだ、この上にも、これ以上の災害があるとは、いったいどんな天変地異が起るのか」

と、易を信ずる者は色を失い、同じ公卿でも、そう信じない若い人々は、

「怪しからぬ泰親が泣き言かな」

と、笑いとばした。

するとその月の十四日。

「たいへんじゃ」

という声がどこからともなく聞え渡った。何が大変か、よく分らない殿上人たちが専ら先に騒いでいた。

下部の者を町へ見せにやっても、

「何と聞分けた事もござりませんが、ただ町中も凡事ならず上下騒ぎ合っておりまする」