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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

四

「いいえ」

「では、なぜ不服か」

「決して、不服などと」

「真っ先に、そちなどが、歓んでよいはずなのに……その当惑そうな顔いろは何事だ。……いや、何か、わしに秘している事があるな」

「滅相もない」

「いいや、そう見える。義理の子ゆえと庇いだてなどする事は、かえって彼女の為にもよくないぞ。良人のわしへも、それが貞節などと考えたら大間違いだ。……よしよし、お前にはもう訊ねん。政子の兄を呼べ。宗時をこれへ呼べ」

時政の声は、勢い大きくなって来た。やがて、総領の宗時は、呼ばれて、父の前に坐った。――そして父の難しい顔いろと、義母の容子を見くらへながら、

「何か、ご用ですか」

と、軽く訊ねた。

四

「そちに訊くが――」

「はい」

「わしの留守中に、政子に何ぞ変ったことはなかったか」

「変った事と云いますと……?」

「たとえばだな」

時政は、父として、言い難そうに、ちょっと口を歪めた。

「――妙齢だからな、もはや彼女も」

「あ。妹の行状などで」

「そうだ」

「――義母上、その事に就いて、何かあなた様からも、おはなし申し上げたのですか」

宗時は、あっさり云った。

「……い、いいえ」

牧の方は、困った容子で、微かに顔を振った。