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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

二

平家に負けて押出されるのもなお嫌である。頑としておれは頑張る。――それが彼の肚だったが、刻々、周囲の形勢はゆるしそうもない。それも彼は自覚していた。

二

夜も更けた。

どこかで馬の嘶きがする。

宿直の跫音が、つづいて聞えた。宵から、うたた寝のまま横たわっていた義仲は、

「なに、覚明が帰ったとか」

がばと起きて、坐り直した。

「ただ今、戻りました」

大夫房覚明は、旅装も解かず、そこへ来て、燭から遠く坐りかけた。

「寄れ。もそっと近う」

待ちかねていた義仲は、さしまねいてすぐ訊いた。

「どうだった、平家方の意向は――。和議は調ったか」

「調えて参りました」

覚明の答えに、

「そうか」

と義仲は、まずほっとしたと云わぬばかりの顔いろだった。

義仲は今、窮地にあった。

東軍は大挙して、瀬田口や宇治方面から迫ると聞えてくるし、平家も水島の大捷に勢いをもり返して、京都奪回を目標に、潮のごとく、山陽を北上して、先鋒の一部はすでに、兵庫に上陸して一ノ谷あたりに集結しているという。

この険悪な象のなかに、義仲は年暮から初春を迎え、何の策もなく、わずかの酒の勢いで、

「なんの、頼朝ずれが」