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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

二

二

高札が立った。

すわ、何か。

という眼いろが、それへ寄り集まった。市の中にも、橋のたもとにも、東獄の門前にも、そういう人だかりが随所に見られた。

「配流とある」

「流罪か」

「伊豆の国へ」

「伊豆へ? ……。ほう」

伊豆とは、どんな遠国やら、京の人々には想像もつかないのである。

「――でも、よかった。また加茂川に、稚い和子たちの首斬られるのを見るよりは」

誰もみな、そこでは、ほっとしたような息をついた。六波羅の処断を、

「情けのある仕方」

と、言外に賞めたたえた。

折ふし、民衆の中には、合戦以後、これから自分たちの司権者として臨みかけている清盛という人が、大きく――忽然と大きく意識にのぼっていたところなので、

「こういう情けのある仁者ならばこれからのご政道もいちだんとよくなろう」

という安心も交じっていた。

けれど、一面のほうで。

清盛の評ばんは、かえって平家の一族のなかでよくなかった。頼朝の処置などは、もっとも悪評で、

「義朝、義平、そのほかを皆斬っていながら、なぜあの童一人を助けたか」

「平常、何事にも、徹しておやりなさるご気性にも似あわぬことだ」

「池の禅尼や小松殿のお口添えによるというが、他からの進言などに、御意をうごかすような殿でもないのに」