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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

四

四

「はて、いないが?」

盛綱は呟いた。

そこの仲間のうちには、鬼藤次の顔は見えない。彼はまた、他を探した。

そういう悪戯に耽っている囲いは、一ヵ所や二ヵ所ではなかった。博奕の流行は、保元、平治の乱以後、平家の繁栄と伴って、上下共に、ひどい風潮となった。日々の業務も抛ってそれに耽る者は、庶民ばかりではなかった。

わが子は二十になりぬらん

博奕してこそありくなれ

国々の博徒に

さすがに子なれば憎からじ

怪我負わせ給ふな

王子の住吉西の宮

孫を負った媼が、そんなうたを謡っているのも、よく聞くことだった。

世の風紀が悪くなったといえば、富士の宿から足柄越えにかかる旅行者のよく云う事にも、あの嶮しい山中にさえ、近頃は、茅の屋根に篠すだれを垂れ、夜見たらむしろ怖ろしげな遊女の宿が何軒もできているそうである。元より怪鳥走獣の声ばかりな深山なので、そこに住む遊女といってはみな年老いたのが多く、旅人たちはそれを「山姥」などと称んでいた。

足柄山の関にさえ、あやしげな女の袖を引く世であるから街道の風儀や国々の府の猥雑放縦な有様も思いやるに余りがある。

まして、市の日、諸郷の小商人やら伯楽やら雑多な人々の集まる市で、悪戯の行われるぐらいは、まだまだ近頃の世相のうちでは、それが白昼、人目を恐れるでもなくやっているだけに罪の軽いほうかも知れ