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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

二

何者か、およそ六、七十人、中には騎馬の影もある。此家を遠巻きにして、わあッわあアと騒いでいる。――そして大した弓勢ではないが、旺んに、矢を送って来た。

二

この辺に住まう、長狭六郎という平家の侍が、夕方、頼朝の泊ったのを嗅ぎつけて、

「降って湧いた幸運」

とばかり、頼朝の首を取りに、夜襲して来た者だった。

三浦二郎義澄は、

「殿っ、お目ざめ下さい」

と、家の中へ呶鳴ったが、物音がしないのでまた、

「各※(二の字点、1-2-22)っ、各※(二の字点、1-2-22)っ」

と、裏口から起した。

起きて騒ぎ立てているのは、此家の百姓の家族ばかりだった。嬰児の泣き声やら、老人のわめき声が、外の矢うなりにつつまれて、哀れに聞えた。

「主っ、驚くな。外へ出るな。泣かずともよい。おまえ達は、一間にじっとしておれば怪我はない。――が、殿と侍たちは、どう召された」

義澄が、早口に問うと、

「お客方は、あれに」

と、嬰児をかかえた女房が、唖のように、舌を吊らせて、わくわくと指さした。

裏の畑の地先は、すぐ沼の汀だった。頼朝はもうそこの小舟にかくれていた。

「義澄っ、はやく乗れ、捜していたのだ」