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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

二

義経は、それらの名もない雑兵の必死な働きを見ていると、眼が熱くなった。

対岸の敵は、

「すわこそ」

と、射手をそろえて、河中の兵へ、箭をあびせかけた。そのために、作業は一しお困難を極め、最初にはいった工兵の半数はもう死体となって流されていた。

もちろん義経の身をも、矢うなりは絶えまなく掠めてゆく。

「楯のお内へ」

と、しきりに、周りの武将たちが、さっきから諫めていたが、耳もかさず、河中の兵に、熱い目をそそいでいた。

「――御大将が見ている」

死も生も考えない決死の兵ではあるが、義経がそこにあることは、勇気を百倍にさせた。

同じ死ぬにも、歓んで死ねるのであった。

孫子の曰う、

用兵の極致は、兵をして、

歓んで死なしむにあり。

意識的でなく、将としての義経の言動には、そのことばと合致するものがあった。

戦に立つ運命はひとつである。ここに立つからには、死は、怯勇無差別に向ってくる。

歓んで死ねる兵は、末代、そのたましいに生きがいの歓びをつないでゆくだろう。

義経は、ひとつひとつ、矢に中って、浮いては流れてゆく死骸に、

「おまえ達のいのちを、この後とも、あだにはせぬぞ」