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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

四

光厳は、それやこれ思うと、何も云い出せなくなって、泣きもせで自分の前に坐っている常磐の瞼が、むしろ不思議にすら思えた。

四

かくては――

と、光厳は心を鬼にとり直して急に云い出した。

「常磐さま、追い立てるようですが、もはやこの御堂も安全ではなくなりました。和子様の泣き声が、夜更けると、遠く本堂のほうまで聞えるのです」

「無理はありません。あのように泣き出すと、火のつくような声ですから」

「学寮の若い人達が、今夜も怪しみ合って、危うく詮議されるところでした。――半月ほどは裏山の花頂堂にお匿い申しあげ、そこには食物のお運びも出来ないため、おとといの夜からは、ここへお移し申しあげましたが、人目や耳が近いだけ、裏山よりもなおここは物騒でした」

「ご心配をかけました。ぜひもない事です。ほかへ立ち去ることにいたします」

「寔に……申し難いのでございますが」

「いえいえ、大晦日の夜からきょうまでも、母子四人、六波羅の眼をのがれ、生きながらえて来られたのは、あなた様のお慈悲でござりました」

「なんの」

光厳は、かえって辛そうに顔を振って、

「法衣は着ていますが、亡き父も叔父も、源氏の端くれでした。