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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

二

今なお、勅使を平家につかわして、何とか、両軍の和議の方法を見出しては、と唱える公卿たちすらあるらしかった。

義経は、気を揉んだ。

範頼に諮ってみても、範頼は煮えきらない性だし、何よりは、政治的な機微がわからない。

「鎌倉どのへ、早打ちを立て、そっと兵を上せ給わるように、わしから申し上げてあるから、たとえ平家が襲せて来ようと、ここ半月も固めていさえすれば、そのうちに援軍が着くであろう」

などと云っている。

何たる悠長さ!

義経は、なおさら、東軍の危うさを思わずにいられない。

「いや、今こそ、ここ一日か二日が、源氏全体の興亡のわかれ目だ。時代の峠だ」

と痛切に思う。

こんな急激な転換期を見ながら、十日も半月も、悠々と、空しく待っていられようか。

いや、何事にも大事をとる筈の頼朝は、中央の政治的な雲行きの如何によっては、

(――そう面倒ならば、一応軍を退いて、鎌倉へひきあげろ)

と、云って来ない限りもない。

それやこれや、気ばかり焦心っているところへ、平軍が大挙入洛して来るという今夜のうわさである。

「そうだ!」

彼の座所へ、侍が、燭を運んで来た頃には、彼の面に、何か、悲壮な決意がすわっていた。