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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

三

てまえにも、ここでお暇を下さい」

と、何思ってか、突然さけんだ。

三

義朝は、しばし考えているふうであったが、金王丸がかさねて、

「おねがいです。もいちど京へ立ち戻り、かの御方達の安否をたしかめました上で、再びお後を慕い東国へ馳せ下りますれば――」

何か、眸も燃ゆるばかり、切な情をこめて訴える声に、義朝も、

「よしっ、行け」

と、遂にゆるして、わずか四、五騎の残る面々と共に、雪けむりのうちへ遠く駈け去ってしまった。

見送ってから。

鎌田兵衛正清と金王丸のふたりは、すぐ道を西へ取って返し、途々も、

「佐殿ようっ」

「佐殿はおわさずや」

と、人影は見なくても、もしや、雪の下に埋もれておりはせぬか、田にでも転び落ちておいでではないかと、雪へ呼び、風へ呼び、野面へ呼び、やや二、三里も探して来た。

「兵衛どの」

「おうっ。何か」

「残念ながら佐殿のほうは、あなたへお探しを任せますぞ。ここは森山宿の追分、てまえは京へさして急ぎますれば」

別れて行きかける姿へ、

「金王。金王」

「はい」

「しばし待て。あの山陰に、小屋らしき物がある。猟師どもの獣小屋かも知れぬ。あれまで――」

兵衛正清はそう云って先に駆けた。