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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
三
それで敵の中核へと。
三草山の塁をふみ破って、一挙に、一ノ谷へ衝き入ろうというのである。
寡と衆。また、天嶮に拠っている守備の強味。――正攻法で勝てないことは、常識でも知れていることであった。
――それをなぜ?
土肥実平は、ひそかに怪しんで、評議も終って人なき後、そっと、義経にきいてみた。
「きょうの事は、ご評議までにも及ばぬ儀と思われますのに、なお、あのような分りきった問題を、何故、物々しゅう一同の意見へおただしにはなられましたか」
義経は、うなずいて、
「そちなどは、そうも思おう。しかし諸将には諸将の自負心がある。義経の所存は極まっているが、一義二義、わざと問題を出して、皆のものに、味わわせ、また気負い立たせて、一決を執るも、軍の故実ぞ」
と、教えた。
実平は舌をまいて懼れた。
この御曹子は、いったい、いつのまに、こう兵学の真髄を究めていたのだろう。いや兵学を読み習うということは誰もするが、書物や口授から得たことを機に応じて用いることはむずかしい。実にむずかしい。かなり実戦を体験してきた老将でもみな嘆じることである。
よほど感じたとみえて、彼はこの事を畠山重忠に、ありのまま囁いた。