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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

二

二

「――近ごろ心外に存じまする」

と、拳を膝において、ある折、ついに、彼の前で云った者がある。

佐藤継信、忠信の兄弟だった。

義経は、面も静かに、

「心外とは、何を」

と、さりげなく訊ねた。

継信は、いつになく激して、その義経の面を見つめながら、

「おつくろい遊ばしますな。おそらく、われら以上、殿のお胸には、ご無念が抑えられておありでしょう」

「はての……。なぜ?」

「くちおしゅうございます」

兄弟とも、両手と共に、それへ面を伏せてしまった。

「わからぬ。何の事やら」

「……鎌倉殿のお仕打です。疾くに、鎌倉殿のご推挙によって、あの無能な蒲殿さえ、参河守に任官され従五位下に叙せられておるではございませんか」

「よいではないか。――それが何で心外か」

「――にも関わらず殿へ対しては、その後も何のお沙汰もないそうです。露骨なご偏頗――無慈悲なお仕打」

「何をいう。義経は、恩賞をのぞんで戦ったものと、そち達まで思うか」

「いや。……決して左様な心根とはぞんじません。しかし事実上、京都ご守護のお役を奉じながら、何の官職もなくては、朝廷のご用が勤まりません。無位無官では、いかに忠勤をおはげみ遊ばそうとしても」