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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
蓬壺の人
一
蓬壺の人
一
西八条の清盛の別邸も、この秋ばかりは寂としていた。八月、重盛の病が重って、とうとう四十二で死んでから入道相国のさしもの元気も、いたく衰えて来たかに見えた。
「……秋だなあ」
入道は、一室から沁々と、眼を千種の秋にやっていた。園内に蓬を多く植えてあるので、そこの室を蓬壺と称んでいた。
「わしも六十を二つこえた」
自分の老齢を、こう心弱く、自分で肯定したりするようになったのも、重盛を亡くしてからであった。
常日頃は、何かの弾みに、子や一族どもが、
「もはやお年ですから」
とでも口を辷らせると、
「ばかなっ」
と、すぐにわざと若々しげな声を出してみせる入道であったが、この秋は、そんな声も蓬壺に聞かれなかった。
相変らず、抹香のにおいや読経は嫌いである。重盛の死をこれほど悲しんで力落ちしていながらも、持仏堂に籠って一片の読経をしたためしはない。
「よい子だった。わしにとっては片腕であった」
と、人前もなく、泣いたりはするが、回向はしてやらないのである。
そのくせ、剃髪して、浄海入道となり、身にも法衣を着ているけれど、それも彼にとれば矛盾でも何でもなく、