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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

三

「政子は無事か」

と、たずねた。

「近ごろはわけてもお健やかでいらせられまする」

と、使者が答えると、

「いずれ沙汰いたせば、それまで待っておれと伝えよ」

そう云うと、頼朝は、出迎えの神官を先に立てて、鶴ヶ岡の社前へ、静々、登って行った。

三

その夜、頼朝は手紙をかいて、伊豆へ急使を立てた。

妻の政子へである。

女というものの身になれば、この二月ほどがいかに長いものであったか。いかに辛い日ごとであったろうか。――頼朝は、その夜にわかに妻が恋しくなった。女の身を可憐しいものと思いやった。

一日、措いて、

「地形は早できたかな」

と、大倉郷の地ならしを検分に出向いた。

わずか四日目にしかならなかったが、そこの広い宅地はあらまし整理されていた。

「早かった」

作事の奉行大庭景義は賞められた。同時に、また、矢つぎ早に次の作事をいいつけられそうだった。

「景義。あとはもはや石を礎え、屋を建てるばかりだの」

「されば、門石垣の粧いなどいたせば限りもござりませぬが」

「まだ庭を見、出入りの門を飾る遑はない。住むに足ればよいのだ。――左様に急を申したところ、当所の知事兼道の邸を、そのまま山内から移して組めば早かろうと皆が云う。