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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
五
「帰るがいい。気をつけて。……そうだ鷲尾の若者と一しょに戻れ」
「ありがとう存じます。……が、後へもどるてまえの身よりも、あなた様こそ、どうか、どうか、ご武運よく、戦いぬいて、またお目にかかれますよう、吉次は祈っておりまする」
「何をいう」
声なく笑って、
「吉次、あてにもならぬ事、祈らぬがましぞ。祈れば後がくやまれる」
「くやまれましょう。もしもの事があった場合は。……もうそうなったら、吉次は望みもございません。僧門にでもはいります」
「鞍馬以来、そちにはずいぶん世話をやかせたな。わがままをしたな。礼をいおう。吉次、そちにも一つの恩はある」
「もったいない」
吉次が、あわてて手をふりながら、馬上を仰いだ時である。義経の横顔に、燦と、紅い微光が映した。
東の天が一変していた。水と空とは父母のように、真っ赤な日輪を孕んでいた。
義経の眼も心も、しばしその崇厳な光に溶かされていた。吉次も凝視していた。うしろの木々の蔭を立ち出た将士も、面を焦かれながら粛として見まもっていた。
「あ、吉次。まだいたか」
「はいっ」
「よかった。そちには、そちならでは出来ぬ大役の頼みがあった」