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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

四

「いけません。むだですよ」

吉次はまた、手を振った。

「なぜ鎌倉殿が、あのように、源九郎様に無情いか。原因をよく考えてごらんなさい。――手前の観るところ、お二人のご性質は水と火です。元々合わないものでした。鎌倉殿は単に九郎様を打ッてつけな使い途に利用しているに過ぎません」

「それでいいものか。上に立つお方が、そのような、利己主義の範を示して」

「覇業のためにはぜひもないと――鎌倉殿ご自身に心のうちで冷やかにいいわけしていらっしゃいましょう」

「わし達の心情では、ゆるせない冷酷だ。世人一般に、骨肉の愛というものを疑わせよう。血と血とのつながりに醸される美わしい愛情を、人の上に立たれる御方からして認めぬようなご行為をなされたら、世上人心に、どういう影響を及ぼすか、恐ろしいことだ」

「いや、鎌倉殿とて、まるで血の気のないわけでもございますまい。人しれず、そこは悩んでおられましょう。……が、そうした心の機微へつけ入って、ある事、ない事、努めてご兄弟が離反してゆくように、耳こすりする讒者もあるから薪に油です」

「讒者。……ムム、梶原景時の類か。とはいえ、あれほどご聡明な鎌倉殿が、小人輩の讒言などに動かされてとは考えられぬ」