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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

初冠

一

「脱いで何をお召になりますか」

「そこらの宿場で、何なと、裾の短いすずしげな肌着一重調えてたも。それでいい。百姓の子の着るのでもいい」

「そいつあいけません」

「なぜさ!」

「女が……」

「わしは男だ」

「あっ、彼方から旅人が来ましたぞ。変に思われると、すぐ密告されまする」

「かまわない」

「かまわない事はありません」

「関わないッたら! そちはわしの云う事をきかないのかっ」

自分の頭から塗笠をり取ると、牛若は、吉次の顔へたたきつけた。

「あっ!」

彼の呆れ顔を捨てて、牛若はふいに馬の首をぐっと延ばした。馬は疾風を衝いて駈け出した。――驚きあわてて、後ろから追いかける吉次を嗤いながら、牛若の姿はたちまち遠く距ててしまった。

初冠

一

先は、馬の迅さだ。

吉次は息が切れてしまった。へとへとになったがなお駈けた。果ては、肺も心臓も口から吐き出しそうな息をした。

「うっ……もうだめだ」

苦しい。眼に汗が沁みる。

愚を悟ったか、胸をたたいて、道ばたへ坐ってしまった。

後ろに森の宮がある。青葉の日蔭に、蝉しぐれの声が涼しげであった。するとそこの小さい御堂の縁から、

「吉次。どうした」