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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
五
助けておくことは罷りならん」
その形相と峻烈な声に、今若がベソをかきはじめた。乙若も泣き出した。
常磐は、ひれ伏したきりとなっている。その黒髪を清盛は睨めすえていたが、
「ちイっ、よしない事」
と、何か悔いたように、ぬっくと不意に起ち上がって、
「下屋へ退げろ」
役人たちへ命じると、耳でもふさぎたいように、首を振って、正殿の帳台へかくれてしまった。
下屋は長い廊を隔てて、裏園のはるか彼方にあったが、深夜に入るとそこからでも、乳呑みの泣くのが聞えてくる気がした。もっともそれは清盛の耳のせいかも知れなかった。
なぜならば、彼は夜もすがら眠りつけない容子だったからである。いっそ世間の底も貧苦も知らない家に生れていたら、こんな悩みもすまいと、清盛は思った。
いつになく、翌る朝、早く起き出でたと思うと清盛は、
「小松殿を呼んでこい」
と、侍者を走らせて、重盛を迎えにやった。
五
朝の光の充ちている室で、重盛は、父の顔を見た。
「どうかなされましたか」
「むむ……すこし頭が重い」
「おつかれが溜ったのでしょう。朝へ上ると、いろいろ煩わしい事が多いらしいと、禅尼にも、お案じなされておりました」