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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

一路通天

一

――けれどもう自分の運命は分っていたものとみえて、蹴上の坂に立った時、洛中を振りかえって、

「幾月あれにいたろうな」

と、側の者にたずねた。いつになく余り素直な義仲の顔いろだったので、侍臣はふと涙を催したそうである。

一路通天

一

その日、院の御所はかたく門をとじて、ただ戦の成行きを、戦を外にひそと見まもっていた。

すると門外に、どかどかと蹄の音が聞えたので、近侍の公卿たちは、

「さては、暴兵が?」

と、はや顔いろを失って、法皇のお座近くにかたまりあい、息をこらしていると、何やら外では高声に呼ばわっているので、耳をすましていると、

「これは、鎌倉殿の代官として、御院宣をかしこみ、洛中守護のため、宇治川より木曾勢を破って、ただ今馳せ参じた頼朝が舎弟源九郎義経です。――洛中諸所もはや平穏に復し、火災もこれなく、庶民もみな戸をひらき、町の往来も常のごとく見えますれば、何とぞ、御心やすらかに思し召されまするよう――右の趣、奏聞の儀、願わしゅう存じまする」

すると。

誰とはなく、院に仕える者の下々にいたるまでが、一斉に、わあっという声をあげた。闇の底へ陽の光がさしたような歓声であった。