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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

三

政子は、何度も胸のうちで繰返していた。父の時政へ、というよりも一族全体へ、祖先からの旧い館の門へ。

嫁ぐ花嫁の心には、奇怪な決心が秘められていたのであった。輿をになう者も、列に従う人々も、見送る一族も、当然、彼女は山木判官が邸へ嫁すものと信じて、疑う者もなかったが、政子の心は、そこへ行くとは思いもしていないのである。

花嫁の列は、生家の門を出る時から、すでに破鏡を孕んでいた。従って政子のなみだは、世の常の花嫁が生家を離れる時のそれとは、まったくちがっていた。

またそれまでの覚悟をするには、女という一身の方向だけではなく、この結果が、どんな重大事をたちどころに招来するかをも、当然、聡明な彼女の考えていないはずはない――北条家も一族を率いる武門、山木判官も武門。すべてのものを弓矢剣の修羅場へ抛つような事にもなろう。吾儘といえば吾儘にすぎない恋一つのために、九族に戟を把らせ、百姓を戦禍へ追いやるなど、何という怖ろしい罪ではあろうと――それらの弁えもないほど無智盲目な彼女でもなかった。

(不孝。ひいては不忠の子)

花嫁は恐ろしい自分の大罪をそう知って戦くのだった。