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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

二

云い断ると、義経は、その事にはむしろ触れたくないように、

「――それよりも、あなたにお伺いしたい事は」

と、話を反らした。

二

「それがしに、お訊きになりたい事とは?」

公朝が問い返すと、義経は、やや面ぶせに、しばらく云い出しかねていたが、

「兄の円済には、無事でおられましょうか」

「オオ、八条宮の坊官円済どのか。お変りもなくお過しのように聞いておるが」

公朝は、答えながら、義経の眸をとおして、この人の血につながる人々をふと思いうかべた。

後白河法皇の皇子八条宮に坊官として仕えている卿公円済というのはそのむかし、平治の乱の雪の日、常磐の手にひかれて生死をさまよい歩いた幼子たち三人のうちの一人なのである。

あの時――五歳であった乙若がその坊官円済で、今では八条の法親王に仕えていた。

いちばん上で、当時七歳であった今若は、その後、醍醐寺に入って、これも出家し、禅師全成と名のっていたが、気が荒いので、悪禅師といわれ、今は醍醐にもいず、消息もよくわからない。

(――やはりそうした兄弟たちが、幾歳になっても、恋しいのであろうな?)

公朝は、思いやった。そして、義経の何か怖れ憚っているような眸へ、もう一歩、立ち入ってこう云ってみた。