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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

野性

一

また維盛も、断ちきれない煩悩にもだえて、女々しいことばを繰返していた。

「かくては」

と、卿の弟新三位資盛や備中守師盛たちは、泣きまどう北の方や、幼な子たちを引き離して、ようやく、維盛を擁してそこを立ち出でたが、こうした別離はひとりここの館だけにあった事ではなかった。

野性

一

法皇を奉じて、義仲は京都へ入った。

彼は、昇殿をゆるされた。

勿論、政治に参与した。

のみならず、法皇の御意をさえ歪めがちで、もっぱら我意をふるった。

彼の我意が、政治のうえに現われてくる。

期待していた民衆は失望した。――が、旭将軍の権力と威風の下に、暗い顔の唖になっていた。

「平家は朝敵である」

義仲は、西国へ落ちた平家の官爵を奪りあげた。

――天下一日も主なかるべからずと、九条兼実の議によって、高倉天皇の第四皇子後鳥羽天皇がご践祚になった。

「事々に、おれの意見は、朝に用いられない」

義仲は、粗暴をあらわしはじめた。

彼は以仁王のご遺志ととなえて、王の御子北陸宮をお立てしようと主張していたのである。

幾日か、参殿もしなかった。

彼の部下たちも、それぞれ任官していたが、いずれも粗野な北国そだちである。