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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

四

その閑日も楽しみ、またよく、天下の事を談じたりもする男は、ここへ食客となって長逗留したまま、いつかずるずるべったり頼朝の右筆となってしまい、また、近郷の絵図など根気よく描いている画工藤原邦通であった。

雲雀も、彼が孵したのである。

「邦通、絵図はまだ出来上がらないのか。――雲雀にばかりかまっておるな」

「そんな事はありませんが」

縁に雲雀の籠をおいて、見惚れていた邦通は、頼朝がはいって来たので、あわてて坐り直した。

「あの通り、やってはおりまする」

「すこし急げ」

「はい。……急にご入用で」

「急ではないが」

「まだ一、両年はよいでしょう」

「いつ要るとも限らぬ」

「去年の暮――例の政子様の事件から、山木家のまわりには、常に神経の尖った眼が見張り歩いているので、肝腎なあの附近が、今なお手がついておりません」

「もうよかろう……。だいぶ、余燼も冷めたらしい」

「――とは思いますが」

「いちど探って来い」

「いや、止しましょう。この際、山木家の附近の絵図など写し取りに行って捕まったら、せっかく下火になったものを、再燃させるようなものです」

「それもそうだな」

「ご退屈でしょう」