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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
彼は、その商隊の宰領格で、奥州栗原郷の吉次という者だった。四十を越えたぐらいな年配で、逞しい商人魂の持主であった。
「吉次が通る――」
「金売吉次が都へ上る」
と、街道すじで聞えれば、東海道はもう四月頃だし、都は桜若葉だった。
ことしも――
仁安の三年。それは、平治の大乱があってから十年目、頼朝が伊豆へ流されてから九年目である。
彼の商隊は、都へ着いた。
都へはいると、長の旅垢や埃にまみれた人馬は、三条河原の空地にひと先ず屯をして、ここで一行何十人の商人が、各※(二の字点、1-2-22)の荷物を分け合い、道中の費用の頭割り勘定やら、つつがなく都まで来着いた無事を祝し合ったりした上、
「ではまた、六月に落ち会おうぜ」
と、隊を解いて、思い思いに、市中の旅舎へ、別れるのが例となっている。
道中は一つに来ても、商品と販路の目的はまちまちであった。
奥州産の細布や伊達絹。
矢に需用される鷲の羽。
水豹の皮、その他の獣皮類。
漆。金箔。
木地類。
南部駒と都で歓ばれる駿馬。
などが商品の重なる物で、吉次は、多く砂金を扱っていた。奥州の産金は、無限に都で需用された。