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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

一条朝成は、そのために、以前よりも六波羅から足を遠くしてしまった。

たびたび、清盛に近づいて、清盛に好感を得ておくことは、勿論、出世の道であることぐらい、十分に知りぬいていたが、世間が妙な眼で見るような気がして、自分の方からここ何年間も疎遠にして来たのである。――現状のひどい貧乏も、官位が進まないのも、友達が寄りつかないのも――原因はそれだけのものだった。

(まあよいわ。貧しくても、妻には慰められている――)

その値として、彼は、御所の一財務官に過ぎない勤めと、十年一日のような平々凡々を、ひとり愛していた。――六波羅殿の息のかかった者は、みな赫々と、栄進したりすばらしい変化を見せている時流の中で、ぽつねんと、妻と貧乏とを正直に持っていた。

その貧乏をつけ目で、金商人の吉次などは、私邸へ近づいて来たものだった。おととし頃から出入りしているのだ。来るたびに、

(奥方へ)

などと云っては、奥州の土産物など持って来た。つい取っておくと翌年も来た。また、今年もやって来た。そして三年目に、本音をはいた。

(あなた様のお口添えで、六波羅様のご普請のご用をひとつ)

と、虫のよい頼み事だ。