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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

――こいつが肉親の伯父面して、今も、一条朝成の館へ、時折、酒くさい息をして出入りしているだろうが」

「……あ。……ではあれが、常磐様を以前密訴した伯父でしょうか。よく遊びに見えていられる――金田鳥羽蔵正武という五十がらみの武者がありますが」

「元は、姓も名乗りもない牛飼だったが、主君の子と、肉親の姪とを束にして敵へ売りこみ、その功で厳めしげに、そんな名乗りを取っつけている奴なのさ。こいつが臭い。――前からわしはそう見ていたが、ひとつ、天狗の仲間入りする引出物に――また、てまえが二心ない源氏の氏子だという証拠をお見せする為に――その鳥羽蔵をかたづけてお見せしましょう」

「かたづけてとは?」

「ま。見ていて下さい。光厳さん、その後でまた、会いましょう。――と云っても、商用の都合でことしはもう来ないかも知れませんがね。……そしたら、来年また」

云うともう吉次の姿は闇の底へ――産寧坂から五条の窪のほうへ風のように立ち去っていた。

それは梅雨をすぎて、急に青葉の濃くなりだした六月初めの蒸暑い晩の出来事だった。

佐女牛小路から火事が出た。

その辺りは、七条坊門やら、塩小路、楊柳小路などの細かい人家が櫛比している所だったが、焼けたのは、六波羅勤めの侍屋敷一軒だった。