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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
山の子
一
金田鳥羽蔵正武の屋敷だった。
それも不思議だし。
もっと奇怪な事には、鳥羽蔵の一家眷族、みな殺しとなって、すべて灰になっていた事である。――いや、そう思っていたら、六条河原の柳の枝に、焼けていない鳥羽蔵の首だけが、ぶらんと、薬玉みたいに、葉柳の中から枝垂れていた。
久しぶりの血腥い騒ぎに、閑な公卿の牛車までが見物に来た。そしてその柳のすぐ下に、もう十年の昔となって、河原蓬につつまれている平治の乱の首塚にも目をとめた。
夜になると、蛍が、塚にも、柳にも、水にも飛んでいた。
奥州商人の大商隊が、例年のように、三条の空地に集合して、蹴上から大津へかかり、遠い故郷へ帰って行ったのも、その騒ぎのあった頃だった。
山の子
一
木の芽が紅らみ出した。春は来たのだ。鞍馬をめぐる山々の霞は仄紅い。
ことし承安の二年。
牛若は十四になった。
七ツから山で育った山の子である。血は義朝にうけ、気は山巒にうけた。
しかも。
鞍馬法師も、叡山、南都の荒法師にも劣らない聞えがあった。山には武器庫さえある。一山はみな僧兵といってよい。平常でも薙刀をひっさげて歩いた。その中で、山の子牛若は、七年間、庇われる者なく存分に虐めつけられて来た。