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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

鷹の子は生まれながら鷹の子の叛骨をそなえている。この叛骨は、母胎を出た年に、平治の乱の兵火を見、あらゆる憂き目と闘った母の強い意志を乳ぶさから吸い、やがて鞍馬の山巒と山法師に揉みに揉まれて、いよいよ烈しいものになりかけていた。――そしてまだそれを優雅に被いかくす社交性もなければ、怖れも知らない年齢なのである。

知らないといえば、彼はこの山以外の世の中さえよく知らない。世間の人中というものは七歳前の淡い記憶しかなかった。だんだんに知って来たのは、

(どうして、わが身は、この山の他へは一足も出て行けないのか)

と、いう疑問だった。

その理由が、うすうす彼自身に解けて来たことは、実は彼自身で自分の生命を、危険な方向へ曝してゆく事だった。きびしい監視はよけい厳しくなって来た。そして生れながらの不敵なたましいも、その環境に育てられるばかりだった。

「ゆるさんぞッ。今日は」

薙刀の柄をふるって、法師はいきなり牛若を撲りつけた。

牛若は逃げ損じて、腰のあたりを強かに打たれ、

「痛いっ」

と、さけびながら転んだ。

「ちと、懲りろ」

法師たちの高歯の下駄や木履が彼の背をふんづけた。