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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

が――それも長い事ではない。二年目の春であった。別当蓮忍は、彼をよんで告げた。

「遮那よ、お許も、はや十六とはなったぞよ。ことしは髪を剃さねばなるまい。出家は嫌いと云いおるそうじゃが、生れてより持って出た宿命、生い立ち、今の時勢など、もう弁えがついたであろう。観念して仏門に入り、弥陀のお弟子となって、荒びた心を捨てい。よいか」

「はい……」

「何を泣くか。十六ともなりながら」

「お……お師匠さま」

「どうした」

「わかりました。けれど、悲しゅうございます」

牛若は左の肱を曲げて、顔へ当てがいながら、泣きじゃくった。

「――出家すると、この黒髪にも、こんな美しい袂の着物とも、別れなければなりませんか」

「分りきったことを。いつまでお許は稚子でいる気か」

「おねがいです。鞍馬の山祭りまで待ってください。五月が過ぎたら出家いたします」

「なぜ、その前は、嫌というか」

「祭りの日には、たくさんな参詣人が、お山へ登って参ります。その時、人に見られるのが辛くてなりません。毎年のように、稚子輪髷に結うて、もう一度、綺麗な着物を着て見とうございます。……今年っ限りでかまいません。お名残りにです……お師匠さま。